top of page
DSC02899s.jpg
History ​

ビールやウイスキーのイメージが強い英国。

しかし、そのワイン造りの歴史は古く、紀元1世紀頃、ローマ帝国の侵攻とともに始まったとされています。また、17世紀にドン・ペリニヨン以前に、スパークリングワインを世界で最初に製造・販売したのはイギリス人であると言われています。

とは言え、本格的なワイン造りが始まったのは、そのずっと後のこと。

イギリスは、歴史的にワインの生産ではなく消費国として大きな役割を果たしてきました。12世紀初頭にフランス・ボルドー地方がイギリス国王の領土となったことがきっかけでワイン貿易が盛んになりました。その後、英仏間で勃発した百年戦争(14~15世紀) によりフランスとの貿易が難しくなるや、イギリスは商売相手をポルトガルに乗り換えてポートやマデイラと言ったワインを輸入するようになります。その後、今日に至るまで、イギリスは世界中から良質なワインが集まる、ワインの消費市場となっています。

そんなにワイン好きでありながら、なぜイギリス人は長い間ワインの生産をしなかったのでしょうか?

​気候 

Climate

pinot-noir.jpg

それは、イギリスの地では冷涼な気候と日照不足により、良質なワイン造りに欠かせない良質なブドウが育たない環境だったからです。緯度だけを見れば、樺太とほぼ同じ。幸い、偏西風と島の周りを流れる暖流に助けられて、気温はそこまで低くなることはなく、海洋性気候で温帯に属しています。しかし、ワイン用ブドウ栽培の北限とされるシャンパーニュ地方より若干北に位置するイギリス。栽培可能なブドウ品種は限られていました。

過去にイギリスで細々と栽培されていたブドウ品種は、気候的に似通ったドイツの品種(ミュラー・トゥルガウ、セイバル・ブラン、ドーン・フェルダー、バッカス等々)が主流でした。

なかなか熟さないブドウで作った酸味の高いワインに補糖をして調整する、というスタイルのワインは、洗練されたワインとは全く別のものでした。ちなみにバッカスは、ドイツ原産種でありながらイギリスで独自の進化を遂げて、今やイギリスのシグネチャー的ぶどう品種となっています。

global_warming.jpeg

ところが、そんなイギリスのワイン市場に大どんでん返し!転機が訪れます。1980年代以降、ブドウ品種の植え替えを始めるワイナリーが現れ始めます。ドイツ品種や土着のブドウ品種から、シャンパン品種であるピノ・ノワールやシャルドネに植え替えたのです。チャレンジ精神、それに地球温暖化による気温上昇が、イギリス南部での品種植え替えを成功に導きます。1988年には、Nyetimberが上記2品種に加えて第三のシャンパン品種であるピノ・ムーニエの栽培を開始し、シャンパンと同じ作り方でスパークリングワインを作り始めます。
地球温暖化の恩恵は非常に大きく、熟したブドウの収穫がより安定的に可能になりました。熟して果実の糖分が上がると、アルコール度数が上がります。実際、1990年以前は”収穫時の”アルコール濃度が5~8%であったブドウが、2000年以降は、ほぼ毎年10%以上になっています。

​土壌 Soil

また、イギリスのワイン用ブドウ栽培を成功させたもう一つの要因は、その土壌です。イギリス南部には石灰質を多く含む土壌が広がっていて、これは良質のブドウを育てるために最適な土質です。フランスのシャンパーニュ地方にも、同様の石灰質の土壌が広がっています。さらに、昼夜の寒暖差が大きい気象条件も、良質なブドウ栽培には重要な要素ですが、イギリス南部はこの条件も満たしています。これらの特性を生かし、シャンパン同様にトラディショナル方式で作るスパークリングワインがイギリスで主流になったのです。

そんな中、1997年のIWSC(インターナショナル・ワイン&スピリッツ・チャレンジ)でNyetimber ナイティンバー(West Sussex)のスパークリングワインClassic Cuvee (1992年ヴィンテージ)が、スパークリングワイン部門金賞に輝いたのです。これはシャンパン以外の世界中すべてのスパークリングワインを対象としたもので、イギリスワインの品質が世界で認められた最初の出来事になりました。それ以降、特にイギリス南部におけるブドウ栽培農家やワイナリーの件数は増え、それに伴いワインの質も大きく向上し続けています。

1990年にはブドウ畑全体の5.7%にしか満たなかったピノ・ノワールとシャルドネの作付け面積が、2019年には66%強にまで増加しています。また、2023年のイギリス全体のワイン生産量のうち、7割近くはスパークリングワインが占めるようになりました。

Nyetimber.jpg
rose%20g_edited.jpg
judgement.jpg

かつて、カリフォルニアワインの品質が世界的に認められるきっかけとなった「パリの審判」というテイスティングがありました。1976年にパリで行われたブラインドテイスティングで、フランス人の審査員をもうならせた最高のワインが、実はフランス産ではなく、カリフォルニア・ナパのワインだったという「事件」です。イギリスのスパークリングワインにとっても、これに匹敵するような出来事が起こります。

2016年4月にパリで行われたシャンパンおよびスパークリングワインのブラインドテイスティング。

ここで、3部門のうち2部門*で、イングリッシュ・スパークリング
ワインがトップの座に輝いたのです。名だたるフランス人パネルの多くは、これらのスパークリングワインを最高品質のシャンパンだと思ったそうです。

【*Nyetimber ブラン・ド・ブラン (2009年ヴィンテージ)とGusbourne(Kent)のロゼ(2011年ヴィンテージ)】

bottom of page